■スタイリッシュに、しかし力強く−−”chikako”のJazzを堪能した夜
櫻井孝志(アート・ウォッチャー)
 2002年1月10日、新宿・靖国通り沿いにあるライブハウス「ミノトール」で、女性ばかり4組のアーティスト/ユニットによるライブイベント”Female Acoustic Night”を聴いた。食事しながら音楽を聴けるのが売りの、感じの良い落ち着いた店で、料理やドリンクの値段も手頃だ。

 ぼくが着いた午後8時前、すでに店内には30人以上の客がいて、1組目の”MIT”の演奏が終わる間際だった。ボーカルとベースの女性2人のユニットで、志村晃代のパンチの効いた歌いっぷりと、佐々木美和子の落ち着いたベースのミスマッチさが逆に個性につながっていい味を出していた。

 2人目の”つかもとみちよ”はピアノ・ソロで、キャロル・キングのカバーから始まり、弾き語りをはさみながらオリジナル曲へ。最初ややピアノが硬かったが徐々にリラックスし、アップテンポの曲では自然に手拍子が。聴衆とのこの一体感は強い武器だろう。

 次の”つのだともみ”もピアノ・ソロだが、一転して最近流行りの、いわゆる「癒し系」ヒーリングミュージック。本人いわくライブは2年ぶりで、普段はコマーシャルや映画音楽などの作曲を手がけているだけに音づくりの水準は高く、歌もうまい。ただ、歌詞のモチーフにシェイクスピアのオフィーリア(たぶんジョン・エヴァレット・ミレイの油彩から想を得たのだろう)を用いるなど、全体にやや耽美色が強く、今回のプログラムの中では異色だった。

 そしてトリが、ファーストアルバム”PLASTIC”に収められた”Trust”がTOPに輝くなど、昨年後半からインディーズチャートの話題をさらっている歌姫”chikako”と”Carlos Mario& Chick Koseki”(2人ともどうやら日本人)によるジャズ・セッションだ。

 この日はかれらの演奏目当てに来た客が大半を占めていたようで(かく言うぼくもそうだが)、いつのまにか満員状態。その会場の空気が、1曲目のSo and so(ホリー・コール)の最初の一声でガラリと変わったのには驚かされた。しかし、もっと驚いたのはジャズシンガーとしての彼女の資質の高さと雰囲気づくりのうまさだ。

 これは、I’m gonna laugh youのようなカバーよりも、アルバムでもお馴染みのオリジナル曲を演奏した時に強く感じた。たぶんそれらの曲の中には、”al Coda To Fine”や”Spoil me”など、ジャズアレンジには向かないと思われる曲もあったが、そうした無理を補ってあまりある技巧と、クールな色気の演出はなかなか見事。

 何を隠そう、ぼくはchikakoをライブで聴くのは初めてだったのだが、アルバムで聴いた時から少なからず予感していた、自己主張の強い、輝きのある声を生で聴けただけでも足を運んだかいがあった。

 特に最後に歌った”Happy Days”はぼくが最も好きな曲の一つで、アレンジも良く、聴衆のノリも最高潮。他のアーティストを聴きに来た人たちからも拍手と賞賛の声がやまない。これは、付け焼刃でなく、彼女が心底ジャズが好きだからこそなし得た技だろう。いわゆる「カラオケ」を一切使わず、アコースティックに徹したこだわりも成功の一因だ。

 ベースとピアノの2人も、ツボを押さえた好サポートぶりを見せ、新宿にいながら気分はさながらブルーノート。

 あくまでスタイリッシュ。しかし力強さは忘れない。ジャズへの挑戦で新領域を拓いたchikakoの魅力を堪能した一夜だった。(了)

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